第1章

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「いや、なんとなく思っただけ。うまく説明できない。でも、オレの言ってるのは、作品を形にして生み出して、それで食ってるヤツだけがアーティストとも限らないんじゃないかってこと。人生がアーティスト的なヤツでもいいじゃんって思うよ。まぁ、おまえが会社をクビになり続けてるのにも、何か意味があるんじゃないの」 「ふうん。すごい一生懸命話をしてくれてるのはわからるんだけど、意味は全然わからない」 「だろうなぁ」 「私は何も持ってない」 「月子・・・・」 「え?」 「おまえ、髪の毛逆立ってるぞ」 「ええっ?」 「それにな・・・・オレ、酔っ払ってるのかな。おまえの体の周りに、何かゆらゆらしたものがいるぞ」 「・・・・・」  龍だ。それがシンには見えるらしい。 「ああ、シン、酔っ払ってるんだよ。ははは」 「そうか。酔っ払ってるか。いいや、今日はまだまだ飲むぞ。つきあえ、月子!」  シンはそれからも飲みつづけ、本格的に酔っ払って、ヘロヘロした足取りでタクシーに乗って帰っていった。  朝方まで付き合わされた月子は、始発で帰ろうと駅までの道のりをゆっくり歩いた。  赤紫色に開けてくる空の上に、白い月が浮かんでいた。  仕事をクビになってから、かれこれ三ヶ月。  龍がいるおかげか、家にいても月子はさほどあせりも落ち込みも感じずに済んではいたが、そのままで良いと思っているわけでもなかった。 次の仕事を探す意欲は依然として起こらないまま、無意識のうちに月子は、なぜかこの前シンが言った言葉を何度も思い出すようになっていた。 「自分の感じたことを貫いていく。そのうち、形になるんじゃねぇの」  眠ろうとしてベッドに入ってからも、つらつらと考え事をしている月子のそばで、龍はつかず離れずしながら存在を示している。    眠りと覚醒の狭間で、声にならない思いが宙に浮かぶ。 「ああ、龍。あんたが話せたらよかったのに」  その言葉を発したら、龍が揺らいだ。  龍は静かに近づいて来て、その巨大な体躯で月子をゆっくりと包んだ。  ふんわりととてもやさしく。  ああ、まるで水の中に浮いているようだ。  心がしんとなる。  どこからか鼓動が聞こえてくる。  トクン、トクンと音がする。  その音が、波動が、心臓と共鳴する。  胸があたたかくなる。  開いた目に、映像が見えた。  小さい私が泣いている。
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