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マークがどうこう言っている場合ではない。しゃれにならないとはこのことだ。
俺は再び女性から離れ、転がるように路地へ逃げ込んだ。それでもまだこの場から逃げ去ってしまわなかったのは、意地汚い野次馬根性がなせる業だろう。
大事件に居合わせた記事が書けると考えていたのだ。あまつさえ写真も撮ってやろうと、目立たないように顔を覗かせた。
事態はますますひどくなっている。血まみれの包丁を携えた男は、へたり込んでしまっている女性を掴まえて、刃物を突き立てているのである。
思わず目をつぶってしまい、決定的瞬間が撮れなかった。こんなことならコンタクト型ではなく、眼鏡型のウェアラブルにしておけばよかったと後悔した。
けれどもまだ惨劇は終わらない。男は興奮してしまったのか、女性と同じように腰を抜かしている人たちに近づき、次々に傷つけているのだ。
今度こそ衝撃的な写真が撮れる。自分も興奮するのを感じながら、通り魔と化した男の一挙手一投足から目を離すまいと睨み付けた。おおかた俺と同じような目線が、他の路地やビルの窓からも注がれているに違いない。
やがて男も膝をつき、アスファルトへ仰向けに寝転んだ。さすがに力尽きたのだろう。その周囲には累々と死傷者が横たわっている他、人も車も見当たらない。まるで映画か何かのワンシーンのようである。
ふとグッドマーク目当ての芝居ではないかと思った。けれども褒められるべき人間が誰もいないから、間違いなく本物である。
それにしてはなかなかパトカーが来ないけれども、撮影と記事を書く者にとっては都合が良い。110通報は他の誰かがとっくに済ましているだろう。
(終)
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