〈2〉グッドタイムス・バッドタイムス

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 すぐに警察官も駆けつけてくる。男は誰何されるなり動きを止め、あっさりと腕を抑えられた。  もう一件落着するだろう。女性も気が抜けた様子で、地面にへたりこむのが見えた。  まだチャンスはある。せっかく事件に居合わせたのに、このまま傍観者でいるのも勿体ない。  「大丈夫ですか」とでも言って彼女に寄り添い、励ますような声をかけてやれば、グッドマークがもらえるのは火を見るよりも明らかである。  俺は女性のもとへ駆けつけようとした。    みんな考えることは同じだ。餌に群がるアリのように、周囲の連中が一斉に女性のところへ飛びかかる。まるでバーゲンセールの最後の一個を奪い合う主婦みたいに、押し合いへし合いになった。  この醜態こそバッドマークをつけられる場面だろうと思ったが、誰もが先を争うように大丈夫ですかと言っている。    すると大丈夫そうではない声が聞こえた。見ると男を取り押さえていたはずの警官が、地面にうずくまっている。  そうして取り押さえられていたはずの男は、血の滴った刃物を持って、荒い息を吐きながら肩を波打たせていた。
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