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母の遺品整理のため、帰省した。
母は気丈な人だった。
しかし一年前に倒れてからは、すっかりやつれて、おとなしくなってしまっていた。
そんな母が、事故で亡くなった。
まだ六十を過ぎたところだった。葬式では参列者たちが「まだ若いのに気の毒なことだ」と憐れんだ。
父はいない。
両親は、私が小学生のときに離婚している。父は出ていき、私と当時中学生だった兄は、母に引き取られた。
当然苦労はあったが、家族の仲は良かったので、それが救いだった。
父とはあれから一度も会っていない。私は、両親の離婚の理由を知らなかった。
兄は大学卒業後に一度上京して、私が就職のために上京するのと入れ替わりで地元に戻った。
その後兄は結婚し、母とはつかず離れずの距離を保って暮らしていた。
母が患ってからは、心配した兄が同居を申し入れていた。しかし母はそれを断っていた。
自立心が強く、容易に人に頼ることをよしとしない母だった。
病気をして以前より弱々しくなっても、そこは変わらなかった。
『心配してくれるのはうれしいけど、母さんはひとりでも大丈夫よ』
じれる兄に、母はそう告げたらしい。
その矢先、母は事故で亡くなってしまったのだ。
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