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縁日に行ったときのものだろう。
朝顔が描かれた浴衣を着た幼い私と、母が写っている。
その背後、行き交う人混みの中に、妙な人が写っていた。
私と母のうしろ、少し離れたところに、中肉中背の特徴のない男が立っている。
男が無表情にこちらを見つめている。
縁日だ、人通りも多い。そこで写真を撮れば、偶然他人が写り込んでしまうことは珍しくないだろう。
けれども、何か違和感があった。
あまりにもはっきりと、男の視線がこちらに向いているからだろうか。
気づいてしまえば、気になってしょうがない。
顔色の悪い男だ。歳もよくわからない。
少したるんだ頬の肉、厚いまぶたにどんよりとした小さな目。色の悪い薄い唇はひき結ばれている。
あまり好感を抱くような容姿ではない。
潔癖な十代の少女が見たら、嫌悪感で顔をしかめそうな、えもいわれぬいやらしさのようなものがあった。
――偶然だ、通りすがりの人が偶然こちらを見ていただけだ。気にすることじゃない。
そう思って、私はまたアルバムをめくる。
そして、めくっていく内に、冷や汗が止まらなくなった。
――どうして今まで気づかなかったのだろう?
どうして気づいてしまったのか。
私は悲鳴をあげて、アルバムを放り出した。
同じ男が、何枚もの写真に写り込んでいた。
一様に表情はなく、昏い目でこちらを見つめていた。
どうして今まで気づかなかったんだろう。
気味が悪い。
なんなんだこの男は。
どうして、
どうして母が写っている写真にだけ、こいつは写り込んでいるのだろう。
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