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「お前さ、親父と母さんが離婚した理由、知ってるか」
「知らない、訊きづらかったし……。でも離婚する前、ふたりがいつも喧嘩してたのは、なんとなく覚えてる」
「うん。あれな、親父はさ、母さんが浮気してるって思い込んでたみたいなんだよ」
「えっ?」
告げられた意外な言葉に、私は声をあげた。
「興信所に調べさせて、そんな事実はないって結果が出たのに、なんでかそう言い張ってたらしいんだよな。母さんは否定したし、俺も馬鹿馬鹿しいと思ったんだが……あの頃の親父は、ちょっとおかしかった」
浮気を疑い、こそこそと興信所に依頼して、結果はシロ。にもかかわらず妻を責め立てる。
さぞかし母は面食らったことだろう。急にありもしない不貞を責められたのだから。しかもすでに調査されていたなんて。
「そうだったんだ……。知らなかった」
「お前はまだ小学生だったし、耳に入れたくなかったんだろ」
「うん……。っていうか、なんで急にそんな話を?」
「え? いや、なんとなく思い出して」
兄は首をひねった後、思いついたように言った。
「あ……興信所。そうだ、興信所が母さんの身辺調査をしたんなら、この男に気づいてたんじゃないか?」
「ああ……。でも、そういうのはなかったんでしょ?」
「うーん、俺も詳しく知ってるわけじゃないからなぁ」
もし、この男が母のストーカーだったなら。
母の身辺調査をしていれば、この男の影がちらつくのではないか。兄はそう言っているのだ。
しかし結果はシロ。母の周りに不審な男の影はなかったことになる。
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