1話 美憂の憂鬱

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私には人に言えない秘密が……あった。 確かにそれは内緒のはずで、その為にわざわざ家から遠い高校を受験し、片道2時間かけて電車とバスを乗り継ぎなんとか通っているはずだった。 なのに…… 「あっ……」 目の前には大好きな悠人先輩。 そして、ここは…… 「沢木?」 「はっ、はい!」 「ここ、男子更衣室」 そう、ここは男子更衣室。 一応花も恥じらう女子高生の私が、簡単に踏み入れない場所。 「ご、ごめんなさいー」 私はダッシュで更衣室の出口に向かっていく。 てか、出口ってどっち? キョロキョロしながらドアを探す。 幸い更衣室には先輩ひとりで、他の誰かにこの醜態を見られる事はない……今の所は。 「沢木、出口そっち」 可笑しそうに笑った先輩が私の後ろを指差す。 「あっ、ありがとうございます」 「いや、面白いし別にいいけど」 先輩はまだ笑ったままで、その笑顔が眩しい。 悔しいけど、眩しい。キラッキラしてる。 「あのっ、この事は他の人には……」 「沢木に男子更衣室を覗く趣味があるって事?」 「ち、違います!覗いたわけじゃ……」 「そうだよな、堂々と入って来てるし」 入ったんじゃない、と言いかけて口を閉じる。 「ご、ごめんなさい。気を付けます」 なるべく目立たないように、変人扱いされないように、そうやって慎ましく高校生活を終えるのが私の目標だ。 「そういえば、沢木」 出口のドアに手をかけた私を、先輩の声が引き留める。 「突然俺の前に現れたけど、あれどういう仕掛け?」 (バ、バレてたぁぁぁ) てか、バレないはずがない。 自分しかいない更衣室に、突然何の物音もさせずに、誰かが現れるなんて。 それこそ手品でしか見た事ない。 「あっ、えっと……」 視線を泳がせる私に、先輩が首を傾げる。 「沢木は忍者か、マジシャンなの?」
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