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私には人に言えない秘密が……あった。
確かにそれは内緒のはずで、その為にわざわざ家から遠い高校を受験し、片道2時間かけて電車とバスを乗り継ぎなんとか通っているはずだった。
なのに……
「あっ……」
目の前には大好きな悠人先輩。
そして、ここは……
「沢木?」
「はっ、はい!」
「ここ、男子更衣室」
そう、ここは男子更衣室。
一応花も恥じらう女子高生の私が、簡単に踏み入れない場所。
「ご、ごめんなさいー」
私はダッシュで更衣室の出口に向かっていく。
てか、出口ってどっち?
キョロキョロしながらドアを探す。
幸い更衣室には先輩ひとりで、他の誰かにこの醜態を見られる事はない……今の所は。
「沢木、出口そっち」
可笑しそうに笑った先輩が私の後ろを指差す。
「あっ、ありがとうございます」
「いや、面白いし別にいいけど」
先輩はまだ笑ったままで、その笑顔が眩しい。
悔しいけど、眩しい。キラッキラしてる。
「あのっ、この事は他の人には……」
「沢木に男子更衣室を覗く趣味があるって事?」
「ち、違います!覗いたわけじゃ……」
「そうだよな、堂々と入って来てるし」
入ったんじゃない、と言いかけて口を閉じる。
「ご、ごめんなさい。気を付けます」
なるべく目立たないように、変人扱いされないように、そうやって慎ましく高校生活を終えるのが私の目標だ。
「そういえば、沢木」
出口のドアに手をかけた私を、先輩の声が引き留める。
「突然俺の前に現れたけど、あれどういう仕掛け?」
(バ、バレてたぁぁぁ)
てか、バレないはずがない。
自分しかいない更衣室に、突然何の物音もさせずに、誰かが現れるなんて。
それこそ手品でしか見た事ない。
「あっ、えっと……」
視線を泳がせる私に、先輩が首を傾げる。
「沢木は忍者か、マジシャンなの?」
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