1話 美憂の憂鬱

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気付くと、私の目の前には先輩がいた。 運良く……なのかわからないけど、今回は通学路の途中だ。 「あれ、沢木帰ったんじゃなかったの?」 目を丸くした先輩が小首をかしげ微笑む。 もうすっかり暗くなってしまった街頭でも、やっぱり先輩は眩しかった。 街灯が、スポットライトにさえ見える。 「あっ、そうです。帰ってるとこだったんですけど……」 そもそもここがどこだかわからない。 見覚えがないから、自分の通学路とは違うという事だけはわかった。 ふと先輩が私から隣へと、視線を移す。 「あれ、沢木と孝宏ってそういう関係?」 「えっ――?」 そういえば、右腕の辺りが熱い。 視線を辿ると、誰よりも驚いた顔で固まっている孝宏がいた。 「どういう事だよ……」 「なんで孝宏まで……」 顔を見合わせる私達に、先輩はにっこりと微笑む。 「仲良いんだね」 「違います」 「だから、これどういう事だよ」 私にもわからない。 どうして孝宏が一緒にテレポートしてしまったのか。 今まではひとりの時にしかそうならなかったし……。 「もしかして……」 孝宏が私に触れていたから……? 触ってたら、一緒にテレポートしちゃうの!? 「先輩、さ、さようなら!また明日!」 とりあえず目が点になってる孝宏を引きずって、その場を走って立ち去った。 気まずいを通り越して何だかもう……笑えてくる。 「あははっ……ははっ……」 明日から私はどんな顔して先輩に会えばいいんだろう。 2度も一瞬で目の前に現れればさすがにおかしいって思うはずだし……。 それに…… 「ちゃんと説明、しろよ」 少し冷静になった孝宏が、逃げ道を塞ぐように立ちはだかっている。 これはもう、高校生活も終わりだな……そう思ってしまった。
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