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「愛也」
私の名前を口にしながら屈託なく笑う先輩の様子に、早くも心をわしづかみにされた事は言うまでもない。
「どうしたの、乗って」
「はいっ」
先輩の声にハッとした私は、内側から開けてくれた助手席に慌てて乗り込む。
運転席には白いシャツにジーンズ姿の先輩がいて。
なんだか、この日は大人びて見えて、一瞬どきりとした。
「卒業おめでとう」
「あ……ありがとう」
どきまぎしながらドアを閉めると。
先輩が好んでつけている香水の香りがふわりと鼻をかすめた。
この車は去年、仕事の合間をぬって教習所に通った先輩が半年前に購入したばかりの新車だ。
よく分からないけれど、SUVっていう車種らしい。
マンションの部屋同様にムダな物一つない車内に、
何度か乗せてもらっている今でも緊張してしまう。
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