タイプ音

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「またやってるのかよ」  キーボードを叩いていると、背後から声。肩越しに視線だけよこすと、声の主は、マグカップを片手にため息をついた。本当に飽きないな、そう付け足して章の隣に座る。 「何々……『そうそう、教えてもらった曲、聞いたよ』」 「おい、読むなよ」 「俺のパソコンだろうが」  コンピューターの画面を体で覆って、隠そうとした章に、呆れたような声を上げる。 「哲夫ってなまえかいとかないと、馬鹿の章はわすれちゃうんかね」 「……うるさいな」  章は言葉に詰まる。明らかにバカにしたような物言いに反発の感情がむくむくとわいたが、唇を噛むことで抑え込んだ。コンピューターは実際、自分より二歳うえのこの男――哲夫のものであり、自分がそれを相手方の厚意で借りているのは事実だからだ。  早く大人になりたい。  肩に力を入れて口をつぐんだ章を哲夫は一瞥すると「へえへえ」と適当に返し、頭を二、三度大きな手の平で叩いた。章の葛藤もわかっていますよ、という風に。それがまた気に入らなくて、章は手を払いのけた。 「追い出すぞ」 「……すみません」 「ん」     
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