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マグカップに入ったコーヒーを一口すすり、哲夫は頷いた。それから、おもむろに画面を指差した。昼にかかわらずカーテンを閉め、暗めの哲夫の部屋は、ブルーライトをよく感じる。哲夫が指差したのは、先程読み上げた部分だった。
「返してやらなくていいわけ」
「あ。……返すよ」
言葉に、思い直したように章はキーボードに指をのせる。それから、カタカタと音をならし始めた。
僅か百四十字に込められる気持ちは多くはない。だからこそ、できる限り伝わるように考えていたい。
「『気に入ってもらえてよかった!大好きな曲なんだ』お前さあ、やっぱキャラ違いすぎるだろ」
「うるさいってば。ていうか見んなよ」
抑揚のない声でだらだらと読み上げられ、頬がかあと熱くなる。哲夫が文面を読み上げてくるのは、毎度のことながら、いつまでたっても馴れず恥ずかしい。必要以上に肘を張って、バリケードを築いたつもりで章は続きを打つ。
「章さあ」
哲夫が尋ねた。章は、画面を見たまま「何」と返す。
「お前、いつまでこんなこと続けるつもりなん」
哲夫の声は、静かな水面に、石をそっと落としたように、章の心に波紋を作った。決して煩くない。綺麗な波紋が、その証拠だ。ただ、疑問、そしてただ心配であると告げている。だから章は、こういうとき、胸のうちにずんと何か重いものが落ち、それがゆっくりごろごろ転がるような気持ちになる。
「……うるさいよ」
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