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不愉快だ。できればこのまま放置して帰りたいくらいに。だがそれは契約に、この場合の「約束」に反する。一年のうちで今日という日に都合よく生者が通りがかることは可能性が低いとはいえ無いとは言い切れない。この胸の悪さに任せて去って、もし「死に直し」の道連れに誰かが捕まってしまったら、彼女の言うところの「無関係」と開き直ることはできないだろう。本来約束だの予約だの契約はそういうものだ。
思っていたより近いところで引っかかっているから、車に戻らなくても良さそうだった。とっとと帰りたいので、リュックの中身を漁って手ごろなサイズの高枝切りばさみを取り出す。
「一人で落ちろ」
同情する気も失せるような派手な色合いの生地を刻み、断ち切る。人一人分の重さなど感じさせずにそれは終わる。布に包まれた軽いものの着水は静かで、それきり何も聞こえなかった。
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