自己完結

3/12
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 前に来たのも夏よ。猛暑日だった。何人も病院に搬送されて、お年寄りなんて結構亡くなったんじゃないかしら。そう、その日。そんなに前だった?時間の流れって早いのね。でも、はっきり覚えてる。普通に暮らしてた人たちが何人も亡くなった理不尽な日。だからこそ、ああ、今日にしようって思ったの。きっとみんな自分に何が起こったのかもわからずに死んだ。そんな日はうってつけだと思って。絶対今日以外にないって思った。  お昼のニュースを見て思い立って、準備はもうしてたからすぐ車に乗って。でも夏休みだったのね、ここに着いたのは夕方だったわ。だからもう少し明るかった。荷物をもって、こうして森に踏み込んで。懐中電灯で照らしてみて、いろいろな形の木があるでしょう?荒れ放題の伸び放題。人の手なんてずいぶん入ってない。だからこそ、私みたいな人も来るんでしょうけど。  暗くなるまで歩いて、深くまで行きたいって思ったの。誰にも見られたくなかったし、誰とも同じ場所になりたくなかったから。けどね、歩いてるうちに私、どんどんイメージしていたものから離れていったの。虫の声はうるさくて、静かな場所がどこにもない。風が吹くたび葉っぱが光を躍らせて、止まっている場所がどこにもない。根っこが張り出して枝が垂れてて、命がない場所がどこにもない。ここは私の思い描いていた最期の地じゃないって、心のどこかで期待してたものが裏切られてしまった。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!