台風一過

2/2
前へ
/2ページ
次へ
舟歌を弾く君の手に触れたいと思う心が浅はかだった。 人は変わるけれど、音楽は変わらない。言葉は変わらない。 私のそばにずっと、いてくれるもの。 寂しそうに答える少女の唇は、いつも血色なく青白い。 長く患う呼吸器の病がそうさせているんだと思う。 僕は違うよ。 声にならない言葉が、喉の中で苦しく籠もる。 そんな夢を見た。 目を覚ますと、台風一過の青い空が見えた。 窓の向こうに、少女がほほえんでいる。 貴方も、離れていくさがなのでしょう。 少女は責める。 妻を娶り、子を成した僕に向かって。 互いに、初恋の相手であったふたりは時間を飛び越えることができないまま、別離する。 裏切り者。 少女が言う。 わびることもせぬまま、僕は再び目を閉じた。 少女と同じ病にかかった、我が身を恨みながら。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加