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学校が春季休みに入り両親も仕事で留守にしていたある夜。
朝から微熱のあったあの方の夕食にシチューを煮込んでいた時でした。
寝室から突然響いた大きな物音に慌てて駆け込むと、ベッドにいらっしゃった筈のあの方が部屋の隅で御自身を抱いて丸くなり、小さな身体を大きく震わせながら必死に嗚咽を堪えていらっしゃいました。
そのお姿を見た時、胸が詰まってどうしようもなく苦しくなったのです。
思い出せば、あの方をお預かりして二月。
一度も涙を見せた事がありませんでした。
普通ならばまだ四歳の小さな子供。
我儘を云ったり甘えたり、大声で泣いたりするのが当たり前の歳頃です。
なのに声も上げず、泣き顔を隠すように蹲って独りきりで嗚咽を堪えるお姿が余りにも痛々しく。
立場も忘れ、胸に溢れる衝動に突き動かされるままに、気付けば小さな身体を腕の中に抱き締めていました。
一瞬その身体が怯えたように大きく震えたけれど。
「大丈夫……大丈夫です。誰も貴方を傷付けたりしません。…貴方は独りではありません。私がずっと、お側に居ます」
囁いたと同時、怖ず怖ずと伸びてきた小さな手が私の服を掴んだかと思ったら堰が切れたように獅噛み付いて、大きくしゃくり上げながらぼろぼろと泣き出したのです。
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