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どの位そうしていたでしょうか。 泣き疲れて眠ってしまったあの方をベッドに寝かせ、掛布を掛けて夕食の続きを作ろうと離れようとしたのですが。 小さな手がぎゅっと服を掴んだままで、それを無理に離す事も忍びなく、何より涙の跡の残る真っ赤な目元で眠るお方を独りに出来なくて。 悩んだ末に隣りに横たわり、小さな身体を包み込みながらその蜂蜜色の細い髪を、細く小さな背中を撫で続けました。 きゅっと獅噛み付く手に、胸元に甘えるように頭を寄せる儚い姿に堪らない愛おしさが込み上げてきて、この小さなお方を生涯を懸けてお守りしたい。 そう初めて心から決心した夜でした。 その夜は初めて魘される事も無く腕の中であの方はぐっすりとお休みになり、私も暫くの睡眠不足が祟っていたのか、釣られて明け方まで眠ってしまいました。 起こしてしまわないようそっとベッドを抜け出し、リビングに居る父に朝の挨拶と共に深く頭を下げて謝罪と反省の言葉を口にしました。 主人である方を気安く抱き締めてしまった事、事もあろうに同じベッドで抱きながら眠ってしまった事、それを黙って聞いていた父は、叱るでは無く静かに云いました。 確かに節度ある距離は必要な事。 けれど一番大事なのは、主が何を求めているのか、そしてそれを叶える事。 もし間違った行為に走ろうとした時にはそれを諌めるのも大切な役目なのだと。 あの方は、主人である前にまだ四つの傷付いた小さな子供なのだと。
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