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私は何故まだ子供の自分がお世話を任されたのか、立派な執事になろうとするあまりに最も大事な事に気付いていなかったのです。 気負わずに暫くは弟のように、との父から助言がありましたが、その距離感は私にとってかなり難しいものでした。 ですがその日以来、あの方の態度は徐々に変わっていかれました。 私が近付いても怯えなくなり、夜は怖ず怖ずと伸ばされる手に同じベッドで小さな身体を抱いて眠るようになり、共に眠ると今まで寝付けなかったのが嘘のようにぐっすり眠られるようになりました。 ゆっくりゆっくりと、あの方の表情が凪いで行くのを感じ、数ヶ月経つ頃にはぎこちなくはありますが笑顔を見せて下さるようになりました。 そして忘れもしない夏の終わりの夕暮れ。 小さな小さな、風の音に紛れてしまいそうな程に小さな声で、初めて発した声で私の名前を呼んで下さったのです。 舌っ足らずの可愛らしい鈴のような声で、遠慮がちに私の名を紡ぐ幼い唇に自然と涙が溢れ、その身体を腕の中に閉じ込めていました。 何があってもこの方を絶対にお守りしたい。 傷付けるものは全て遠ざけて、ずっとこの方が笑っていられるように、自分の命を懸けて生涯お側に居たい。 そう改めて誓ったのでした。
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