一章 翳った太陽

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重い身体をゆっくりと起こして、シャツのボタンを留めて下腹部に置かれた下着とズボンを履く。 そう云えば、あんな風にわざわざ丁寧に埃を払って身体に掛けてくれたのは初めてだ。 優しい子なんだろう。 今は使われていない教室を出て、人気の無い旧校舎の板張りの廊下を軋ませながら階段を下りて中庭を横切る。 予鈴が鳴って皆が慌ただしく校舎の中を駆けて行く中、人の少なくなった一階の廊下の端の扉を開いた。 瞬間、僅かに眉根が寄るけれど直ぐに表情を戻して、奥のベッドのカーテンを開けた。 部屋の中に漂う消毒液の匂いが何処か落ち着く。 上履きを脱いで白いベッドに潜り込んだ。 「具合でも悪いのか」 「……先生は?」 この人は苦手だ。 質問には応えず逆に問い掛けた。 「怪我した生徒の付き添いで病院に行ってる。留守を頼まれた」 「ふうん」 保健委員でも無いのに大変ですね。 なんて会話をする気は無い。 折角眠れそうなんだ。 今はこのまま寝かせて欲しい。 なのにこのお節介な風紀委員長サマは、そんな気は無いらしい。 「……まだ司の事、引き摺ってるのか…?」 「なワケ無いでしょう?ほんとに具合悪いんで、寝かせて下さい」 サイドのカーテンを引いて掛け布団に顔まで潜り込む。 何時もは保険医の座ってる回転式の椅子が軋み、溜息が聞こえた。 確かに今の僕の切っ掛けを作ったのは司先輩だと思う。 だけど引き摺ってるかと訊かれれば本心から違うと答えられる。 そもそも僕は、司先輩の事が本気で好きだった訳じゃないのだから。
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