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魔術師ラマヌは紛れもない天才である。
しかしヤッパル魔術学院ではその才能を活かすことができなかった。座学も興味のある分野では講師顔負けの成績を叩き出すのだが、そうでないところはからっきし。
一番の問題は、ある日突然「まったく未知の魔術」を創造してしまう事だった。
魔術の創造は、一流の魔術師であっても手を出すものは滅多に居ない。
魔術創造の手順も困難を極める。まず仮定を立て、幾度も実験を行い、そしてようやく実践に取り掛かれる。これだけでも相当な手間がかかるうえ、徒労に終わることもしばしばだ。
そもそも、いま存在する魔術だけでも十分に間に合っているのだ。割に合わない魔術の創造など、よほどの物好き以外はやろうともしない。
だがラマヌは、そんな常識を遥かに超えた手段で魔術創造をやってのける。曰く「ラマヌちゃんが寝てる間、夢の中で女神様が現れて魔術を教えてくれるんですよー」とのこと。理屈も何もあったものではないが、実際に新たな魔術がそれで生み出されてしまうのだから、一流の魔術師ほどラマヌの存在は不可解に映るだろう。
ヤッパル魔術学院は四角四面な講師が多いと聞く。歴史が長いぶん、保守的で凝り固まった考えが蔓延しているのだろう。実際、学院の卒業生は教科書通りのことしかできない人間が多いと揶揄されている。
そんな学院だから、手に余るラマヌをゴッドフレイに押し付けたわけだ。御祖様の縁ある学院にあれこれケチを付けたくはないが……。
ゴッドフレイはラマヌの処遇について考えを尽くした結果、「目の届く範囲内では極力自由にやらせる」という方針に決めた。
ラマヌの創造する魔術。ともするとそれは世界に革命をもたらすかもしれないからだ。魔王を討滅せしめるものであったり、生活をより豊かにさせるものであったりするかもしれない。
だが、あまりにも危険そうな場合は発動の前にラマヌを気絶させることにしている。この間も、判断が一瞬でも遅れたら小高い山が三つほど消し飛ぶところだった。だから、目を離せないのだ。勝手に魔術創造などやられてはどんな惨劇が起こるやら分かったものではない。
ゴッドフレイは今や「魔術の毒見役」とでも言おうか、そんな立ち回りである。しかしこれも世界の平和と魔王の討滅のためだ。たとえ、それが子供のお守りと言えど。
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