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引きこもる魔王
魔王城の最奥で、本を片手に一喜一憂する人物。SNSに没頭しているのは、魔王その人である。
予定では三年後に復活するはずだったが、もうとっくに目をさましていた。勇者が施した百年の封印は、九十二年目あたりで解けてしまっていたのだ。となれば、律儀に期限を守る必要など無い。
だが現在、人間の質、量は魔王の想定を遥かに超えていた。このままでは負け戦になると見て、魔王は早々に世界征服を断念したのだ。
魔王城には絶対不可侵の結界を張ってある。勇者が施した中途半端な封印とは違って、永遠無窮に効力を持つ大魔術だ。魔王は人知れずこのまま城内で余生を過ごすつもりでいた。
ある日、数少ない配下の者から「巷ではSNSとかいう魔術のかかった日記帳が流行ってるそうですよ」と聞いた途端、孤独に苛んでいた魔王は飛びついた。
ほんの出来心のつもりで、魔王軍の将軍の弱点を教えてしまった。それがきっかけで多くの人々からチヤホヤされるようになった。それが嬉しくて再び弱点を書き記してしまう。その繰り返しの結果、今や魔王軍の機密情報はダダ漏れである。
だが、ここにいるうちは大丈夫だ。人間には魔王城の場所さえ分からないだろう。
この間はうっかりノリでファンの一人と出会う約束をしてしまったが、あいにくここからは出られないのだった。なので適当な断りの理由を考えていた魔王だったが……。
急に、足元の感覚が失われた。同時に、どこかへ引っ張られるような……。
「これはまさか、強制転移呪文か!? このような高度なもの、人間に使えるはずなどない! どういうことだ!?」
突然の出来事だったため抵抗もできなかった魔王は、そのまま渦に飲まれてしまった。
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