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おかしい。このラマヌとかいう少女、一人称が「自分の名前+ちゃん付け」の時点で常軌を逸しているが、それ以上に不可解なのは「飛んできた」と言ったことだ。
魔術を専門としないゴッドフレイであるが、それでも魔術の効果や名前程度ならば知識として知っている。筋肉に働きかけることで一時的に敏捷性を与える加速術であれば、詠唱できる魔術師はさほど珍しくもない。しかし、ラマヌのように「任意の場所へ瞬時に跳躍する魔術」など、ゴッドフレイは見たことも聞いたことも無かった。
困惑するゴッドフレイをよそに、ラマヌはひょうひょうと話し出す。
「ついさっき、学院の植物園にあった美味しそうな果物を盗み食いしてたんですけどね。先生にバレちゃったから、ラマヌちゃんの魔術でここまで飛んできたんです」
言いつつ、ラマヌは口元をローブの袖で拭いた。
ゴッドフレイは思い出した。あのローブはヤッパル魔術学院の制服だ。
「あ、袖が汚れちゃった。まあいっか。TAXIで帰ってこっそり洗えば大丈夫でしょ」
「待て待て待て!! ラマヌ殿、本当にその……タクなんとかいう魔術でヤッパル魔術学院に帰るおつもりか!?」
「そうですよ。あれ、ラマヌちゃんあそこの学校から来たって言いましたっけ?」
「ヤッパル魔術学院には何度か訪れたことがある。故あって、彼の学院と私は懇意の関係でな」
「故? 故ってなんなんです?」
きらきらした目で問い詰めるラマヌ。自身の素性をぺらぺらと話すのはゴッドフレイの性分ではないのだが、隠し立てし続けるのも居心地が悪い。
仕方ない、話すとしよう。
ただ、自身の血筋を明かして面倒なことにならなければいいが……。
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