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それからは連鎖的に当時のことを色々と思い出そうとした。
担任の名前、仲の良かった友人、クラスの中心人物。
文化祭の催し、体育祭の結果……。
記憶の断片を継ぎ接ぎしていく。
けれどどうしても彼女については、俺の記憶の中にある以上の情報は出てこなかった。
名前さえも、思い出すことが出来ない。
頭の中を蠢く靄がより濃くなっていく。
気が付けば四六時中彼女のことを考えている。
朝も昼も夜もない。
まるで本当にあの頃の、初恋に想いを馳せていた頃のようだ。
そこまで考えて思わず自分のことを鼻で笑ってしまう。
中年と呼ばれる歳に差し掛かる男が、ついに頭がおかしくなってしまったか。
無意識に独り身であることに寂しさを覚えているのか。
馬鹿馬鹿しい。
こんなことを一々まじめに考えてしまうから、なんでもタイミングを見失ってしまうのだ。
もしも俺が何か行動を起こしていたら、何か変わっていたのだろうか。
……少し疲れが溜まっているのかもしれない。
夢を見るということは眠りが浅いからだと誰かが言っていたような気がする。
眠るにはまだ少し早いが今日はもう休もう。
俺は部屋の電気を消して布団に潜り込んだ。
何年も使い続けている布団は既に弾力を失い所謂「センベエ布団」と化していた。
もしかするとあの夢を見る原因はこの布団にあったりするのかもしれない。
それならそれで、別に構わない。
どんな形でも眠りさえすれば彼女に逢えるから。
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