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ずっと気づかなかったこの想い。
最初は何なのか分からなかったけど、それが今まで相手に抱いていた感情と違う事に……
だけど、この想いを告げることは今までの関係が終わってしまうから
ずっと心に秘めようと思っていた。
あんな出来事が訪れるまでは……
ーある日の夜ー
「また、仕事先で何かあったのか?」
隣り合わせのベランダのサッシに凭れて外を眺めていた女性にマグカップを両手に抱えて、一つを差し出してきた男性
「失敗した訳じゃないんだけどね……」
ありがとう、とマグカップを受け取ると両手に抱えるようにボソッと呟く
「なんか外眺めたくなって」
「お前が外眺めたくなった時はなんか悩み抱えてる時、だろ?」
行き詰まってんの?と尋ねるとまぁね、と曖昧に答える姿にそうかぁとコーヒーを口にしながら、相槌を打っていると
「幸平はさ、悩んだりしないの?」
「んー最近はないかな。仕事も上手くいってるし」
「……私も普通の仕事だったらこんな悩まないんだろうね」
幸平と呼ばれた男性が由香も頑張ってると思うよ。と告げると微かに笑みを浮かべて、ありがとうと呟いて、甘めのコーヒーに口に流した。
「確かに色々大変そうだもんな」
「……最近上手くいかない。監督にも怒られるし」
「でもその職業選んだのは、お前だろ?」
幸平の言葉にそうだけどさぁ、と溜め息を漏らしながら項垂れる由香にしっかりしろ。と声を掛ける
「お前が元気じゃないとおばさんが心配するだろ」
それに俺はちゃんと見てるからお前が出てるの、と告げると由香は驚いたような表情を見せた。
「嘘っ幸平が?」
「親父とお袋が録画して見せてくるんだよ。由香ちゃんが出てるよぉって」
だから、見てるだけ、と照れ隠しをする口調に由香は、可笑しそうに笑い出した。
「なんかありがとうね」
「なんだよいきなり」
「……幸平だけは」
私のファンでいてくれるんだね。と笑いながら言うとじゃあ明日も撮影あるからとマグカップを手にしたまま中に戻っていった。
そんな由香の姿を無言で見送った幸平は、コーヒーを飲み干し、大きく伸びをしながら中に戻る
そんな二人は幼馴染みで由香は今話題の女優であり様々なドラマに引っ張りだこの若手
幸平は、普通の社会人で一般企業で働くサラリーマンである
この二人のもとに生命の契約書が来るのはまだ少し先の話
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