2/10
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 俺の住んでいるアパートの近くに、美味いコーヒーを出してくれる落ち着いた雰囲気のカフェがある。  住宅街の奥まった所にあるこのカフェは、知る人ぞ知るといった店。  どちらかというとお客も、年輩の紳士や淑女といった常連の方々が殆どだった。  だから、俺みたいな二十代前半の若い男が、一人でゆっくり読書をしながら、まったりとした時間を過ごすのにも心地いい場所なんだ。  ただ、最近。  俺と同じくらいの若い女性を、よく見かけるようになった。  俺はいつも、店の奥のテーブルが定位置になっていて、その女性は丁度、柱の影になる中央のテーブルに座るもんだから、顔立ちだとか、彼女の持つ雰囲気なんかは、よく分らない。  ただ、黒くてまっすぐな長い髪と、毎回、綺麗にネイルされている形の整った爪が印象的で、きっと美しい人なんだろうなぁと、彼女の容姿を想像することも俺の楽しみになっていたんだ。  ある日。  その日は、たまたま奥のテーブルに見た事のないカップルが座っていた。  指定席を取られた気分の俺は、入口付近であからさまにショックな表情をしていると、それに気が付いたマスターが申し訳なさそうに、「新規のお客様で……」と頭を下げるものだから、たまには日当たりのいい窓際でもいいかと思い、いつもとは違うテーブルに着いた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!