3/10
前へ
/10ページ
次へ
 温かい日差しに、心地よいジャズの音。  穏やかな時間が流れる。  どれだけの時間が経っただろうか?  例の彼女がやって来た。  今日は柱が邪魔する事もなく、彼女の姿が全て見える位置ではあるものの、不躾な視線を送るのも失礼だと思い、コッソリと目を向けた。  自分の位置からでは顔は見る事は出来なかったが、やはり、長く綺麗な髪とスレンダーな体型。  そして、ほっそりスラっとした指には、鮮やかなネイルが施されていた。  これ程、身嗜みに気を遣っている女性も中々珍しい。  思わず見惚れていると、彼女の元に珈琲が運ばれてきた。  すると彼女は、自分のバッグからシガレットケースみたいな物を出した。  勿論、このお店は禁煙。  珈琲の香りと味を台無しにしてしまうからね。  その事は、常連になりつつある彼女であれば分かっている筈。  まさか煙草を吸おうなんてことはしないだろうなと、さっきまで見惚れていた癖に、この癒しの空間に無粋な真似をしようとしている彼女を、咎めるような視線を向ける。  この後の行動次第では、マスターに代わって注意してやろうと、いらぬ正義感が湧きだした。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加