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 心配そうな顔で俺の顔を覗き込む彼らに、「あ……あの……あの女!」と指を指すと、皆、一様に首を傾げる。 “え?”と思い、いつも彼女が座る席を見てみると、誰もいない。  マスターに、「いつも、あの席に座っている女性は?」と聞くと、「そのような方は、今まで来られた事も、見た事すらもございませんが……」と答える。  訝し気な目で見るマスターに、薄気味悪そうな顔をするカップルの視線を浴びて居心地の悪さを感じた俺は、その場に図々しくいられるような図太い神経など持ち合わせていない。  別に悪い事をしたわけでもないのだが、居たたまれない気持ちになり、さっさと会計を済ませて、その店から逃げ出したんだ。  正直。  あの女の正体が何だったのか未だに分らないが、あの顔は間違いなく病的な顔だった。  よく、タンパク質不足で鬱病になり、自分の爪を噛んでしまう人がいるとは聞いた事があるが、もしかしたら彼女も、そんなタンパク質不足からなのか、ストレスからなのか、爪を噛むようになってしまったのかもしれない。  それが、徐々に爪を食べるように発展して……そして……最後には自殺……  うわ!  まさかなぁ……それで、幽霊って。  じゃぁ、なんであんな昼間っから、あの店にいるんだよって話だし。  しかも、なんで俺にしか見えなかったのかって話なんだけど。  俺も、実は前々から、爪を噛む癖があるんだ。
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