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 僕は時雨を部屋の中に入れると、近くにかけてあった上着をはおってスタンドをつけ、紅茶をいれるためにガスのスイッチを入れた。 「もう寝ようとしてたのか。流石優等生だな」  時雨は椅子の背もたれにコートをかけながら、僕のベッドを見てそう言った。そのまま、自然と目線が隣りのベッドへと向けられる。 「本当に……居ないんだな」  時雨の手が小さく震えてまた元に戻る。自分の左手で右手を掴んだ彼は、しばらく黙ってそのベッドを見つめた後、目を閉じてゆっくりと椅子に座った。 「正哉の荷物はどうするんだ?」 「それなら、明日の朝に親が取りにくる。今日はまだそんなことを出来る状態じゃないというので明日になったんだ。そして、その当日の夕方には別の生徒が入室。  淡々とした早さで何もかも変わっていく」  マグカップに入れた紅茶を差し出すと、時雨はそれを受け取ろうと手を伸ばし、その途中で指を震わせはじめた。 「時雨…? どうしたんだ?」 「ユーリ」  カップの中のチャプンという水音が、時雨の声と重なって薄暗い部屋に木霊した。  冷たい時雨の指が、布を通して僕の背中を冷やした。僕はマグカップを持ったまま、ずっと色素の薄い彼の髪を見ていた。
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