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「ユーリっ!」
その目は僕を責めていた。何故という思いを込めて、僕の名前が呼ばれる。
「そうだよ。僕は篠雪が嫌いなんだ。そんな私物には触るのもおぞましい程」
時雨は何も言わずに僕の目を見、その瞳には、彼が今まで見てきた僕と正哉が映っていた。まだ幸せだったそう遠くない日々…まだ、僕と彼が強い友情で結ばれていた頃。
「…嫌いだよ。大嫌いだ」
時雨が何か言おうと口を開いたが彼はそれを音にはせず、ゆっくりと床に膝をついた。黙々と正哉の教科書を拾って腕の中に積み重ねる。
「君は…僕を責めるか?」
時雨はまた僕の方を見ると、最後の本を持って立ち上がった。
「……いや。じゃぁ俺は、お前に謝らなくていいんだな」
「……」
時雨は少しだけ僕の返事を待つと、正哉の本を机の上に置いて、さっき椅子にかけた黒いコートを取った。
「おやすみ」
「…おやすみ。良い夢を」
パタン…
時雨は僕の返事を少しだけ待った。僕は何も言わなかった。もうこれ以上、正哉の存在を自分の心に印すようなことをするのは嫌だったから。
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