6/6
前へ
/106ページ
次へ
 ここは、世界の中の小さな国の、さらに小さな空間。  まるで昔のイギリスにあるような校舎に、牢獄のように規律の厳しい寮。毎日毎日、何処に居るかも分からない神を讃え、ただ男子だけで修行院に居るような生活。ろくに太陽の差すことのない灰色の城で、僕達は心も体も少年のままに生きる。  それなのに、どうして君だけが羽ばたこうとした? 「主よ…」  一つの言葉を呪文のように繰り返しながら、ベッドの中に潜む黒い沼に沈んでいく。 『彼を我の記憶から消したまえ。全能なる神よ、主なる神よ――――――』  黒い波に揺れながら、思考だけが漂う。  僕は彼を拒絶した。何があっても口さえきかぬ程彼を避け続けた。彼の近くに寄るだけで気分が悪くなった。 僕達は昔、確かに仲が良かったけれど……  あの朗らかな笑い方。ブルーグレーの瞳。薄い茶の細い髪。  それらが眼球に映るだけで、僕は。  ……まるで、何かに激しく責められるような不快感をおぼえたんだ。
/106ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加