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 僕の楽しい時間は、パシャリ、そんな音とレンズ越しの一枚から始まる。  ウインクをした猫にはビターチョコとオレンジの餡が、口を開けて笑う猫にはチョコミントの餡が入っていて、夏を手のひら一杯にかき集めて贅沢に頬張ったような"猫ちゃんちぎりパン"を最後の一欠片まで堪能しながら、いつの間にか出来ていた後は消えていくだけの飛行機雲を眺めていた。  コーヒー牛乳を一口飲んで、再び携帯の画面へと視線をおとす。  撮ったばかりの写真を選んで商品の説明と、感想なんかをまだ不馴れに打ち込んで投稿ボタンを無感覚に押した。  数分とかからない内に十数人の顔も名前も知らない人達が、僕の言葉を受けとってその応えをくれた。共感を示してくれた。そんなことが僕は素直に嬉しかった。  この校舎よりも広く果てしない電脳空間で、僕がパンを紹介した一ページは小さくて、ほんのちっぽけな片隅なのかもしれない。それでも、見渡せば30並ぶ机のひとつにうつ伏せて流した涙より、そんな片隅で呟く文字は"誰か"に届く言葉になった。人に届いて、意味を成す想いになれた。  それでいい。それだけでもう、十分だって思ってた。  諦めなんかじゃなく、そう思ったのは嘘じゃないはずなのに。  もう一度見上げた空には飛行機雲が少しも残らず消えていて、今日は空が一際青く澄んでいて、程良い風が心地よくて、パンはやっぱりおいしくて。  コーヒー牛乳を飲み終える頃、いつもより妙に満たされた心の隙間につけ込むように悲しみがポタポタと流れ込んだ。  溢れて頬を伝ってしまったのは、画面の中でゆっくりでも増え続ける共感の数分のハートマークでは埋めきることのできなかった寂しさ。  姿の見えないほど遠い誰かの優しさでは慰めきれなかった悲しみ。  パンの香りの向こう側、携帯の画面よりも近いところでパン屋のおじちゃんが微笑む。  それがあまりに優しかったから、数粒多くの涙がこぼれた。
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