ウマが合う

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「外から音速の精強なる足音がする! トウカイコウテイ! トウカイコウテイが先頭に立った! さあ差は開くか! ここから引き離すか! さぁ! 開いた! 差は開いた! デビューから、わずか三戦でこの貫録! 差は開いた! 二馬身から三馬身! これは恐ろしい馬だ! そのまま他を寄せ付けず、一着トウカイコウテイ! 一分三十四秒二! 一分三十四秒二! わずか三戦でダービー制覇! 恐ろしい馬です!」 ”ワァァァァア!”という大歓声の中、俺達は興奮冷めやらず、そして互いに歓喜し合う。 言葉は無くても、互いの間にだけ伝わる“感情” そう。 俺とトウカイコウテイは“馬が合う” コイツと出会ったのは、わずか二年前。 足はいいが、性格が荒くれ者な“コイツ”と、腕はいいが、レース中、たった一度の落馬から大怪我をし、恐怖心を覚えたヘナチョコジョッキーな俺が、何故か、目と目が合った瞬間から、互いに惹かれあい、絶対に人を背に乗せなかったお前が、俺にだけは背中に乗る事を許してくれた。 懐かしさを覚えながら、トウカイコウテイの首をポンポンと叩くと、“そんな事もあったな”とでもいうかのように、「ブルゥゥゥゥッ」と鼻を鳴らす。 表彰台に上がっても、周りの歓声、撮影、記者からコメントを求められても、何故か、俺達の間には、言葉ではない独特の空気での会話がなされる。 恋人でも友人でもない。 それ以上の絆を持つ、かけがえのない相棒。 俺とコイツは本当に“ウマが合う” 正直、レース中に起きた落馬事故から、俺は自分に自信がなくなり、そして、馬の背に乗って練習する事は出来ても、いざレースとなると、どうしても身体が強張り、震え出し、レースどころじゃなくなった。 でも、コイツの背だけは、何故か安心出来たんだ。
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