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そう――――コイツだけは“信頼”出来た。
俺は、コイツとの走りには鞭を使わない。
こいつの背に乗れば、互いの意志がリンクし、互いの気持ちが手に取るように分かる。
言葉にしなくても、何か指示を出さなくても、互いの呼吸だけでコイツは俺の考えを理解し行動に変える。
そして、俺もコイツと一体化になったかのように。
まるで、互いが溶けあって一つとなり、風になるような気がするんだ。
だからこそ、たった三戦で日本ダービーを獲れた。
俺達はこのまま風になるんだと疑いもしなかったが……運命の日は誰にでも訪れるもの。
幸運も不運も。
何の足音も立てずにやってくるものなんだ。
有馬記念。
あの日は何故か胸騒ぎがした。
言いようのない不安を覚えた俺は、コイツの体調が優れないと訴え、出走を取りやめるよう、オーナーや調教師たちに申告した。
しかし。
所詮は、雇われジョッキー。
実際に健康診断をすれば、別段、問題なく。
コイツも“問題ない”とでも言うような顔をして、俺に自分の背中に乗るように目で合図した。
俺はコイツが大事だ。
レースよりも、コイツの体……いいや、コイツそのものが大切だからこそ、出なければならないレースならば、仕方なく受け入れはするものの、無理のないレースでやり過ごそうとした。
だが。
それではプライドが許さなかったらしい。
コイツは、“任せろ”とでも言わんばかりに、初めから飛ばしていた。
「鞭を抜かずに勝ち続ける須藤勝とトウカイコウテイ! さあ坂を駆け上がってくる!
外からストレートキャッチ! 一番外からストレートだ! ストレートキャッチ!
さあ内々頑張っているのはフライングオレンジだが、外からなんとストレートキャッチ!
トウカイコウテイ! いつの間にか先頭に変わっている! トウカイコウテイ! ストレートキャッチ!
そしてフライングオレンジ! 三つ巴か! いや! やはりトウカイコウテイ! ここで仕掛けて来た! トウカイコウテイ! 更に蹄に力をかける! 一気に差を開く! トウカイコウテイ! トウカイコウテイ! やはりトウカイコウテイだー!
火の鳥、鳳凰が勝利へ向けて羽ばたきました! 」
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