魔法おじさん☆今市大次郎

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 部下の小言にはじまり、上司の叱責に終わる。今市大次郎の会社での一日はこうして幕を閉じる。ゆえに、ストレスの爆弾を抱えた今市は帰りに一杯やらずにはいられない性分になってしまった。  おかげで今夜も帰路に着いたのは、午後九時をまわってからだった。けれど、彼を咎める者はだれもいない。安アパートで待っているのは、干しっ放しの衣類と汚れた食器ぐらいである。  右に左にと揺れ動きながら繁華街を抜け、今市はひと気のないオフィス街へと足を運ぶ。帰宅途中と思しき者とときどきすれ違うぐらいで、サラリーマンラッシュの昼間とは別世界である。 「今夜も風前の灯にはほど遠いな」  そこかしこの窓から明かりが漏れるビル群を見あげつつ、今市はひとりごちた。夜を彩る残業の輝きに目を細める。あの光の下にいないだけ、まだ俺はマシなのかもしれない。こう自分を慰め、自宅への最寄り駅を目指した。 「ん?」  数分後、今市は異変を感じた。足をとめ、首をかしげる。おかしい。もう駅に着いてもいいころなんだが。
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