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うちの祖父から聞いた話です。
祖父がまだ子供だった頃、近所に井戸がありました。
井戸と言っても石を組んで作られた本格的なやつではなくて、コンクリート製の筒を載せたもの。
人が落ちないように鉄板で蓋ふたがしてあって、ポンプで水をくみ上げて使っていたそうです。
どのくらい古くからあったのかは、祖父も詳しく知りません。祖父の父親、つまり曾祖父そうそふの時代に掘られたらしいので、たぶん戦前からでしょう。
これだけだとごく普通の井戸ですが、実は奇妙ないわくがありました。
なんでも、その井戸は猫を呼ぶんだそうです。
「近所で歳をとった猫が姿を消すとな、だいたいその井戸の中から見つかるんだわ」
それも一匹や二匹ではありません。およそ数か月に一匹ずつ、多い時には数匹の猫が見つかりました。
不思議なのは、井戸の蓋が開けられた形跡がないと言うことです。
井戸の蓋はかなり重い鉄板で、猫が動かせるようなものではありません。
そもそも頑丈な南京錠が取りつけてあって、滅多なことでは開かないようになっていました。
なのに猫はいつの間にか中にいる。それがひどく不気味だったそうです。
「猫は死に場所を探すというけどな、ありゃあたぶん、井戸に呼ばれたんじゃろうて」
そう言うと、祖父は煙草を灰皿にぎゅっと押しつけました。
ふう。一息に話したら喉が渇きましたね。
なんだか無性に飲みたいなあ。水。
おしまい。
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