アンリアル

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アンリアル

部屋に入ると、私はベッドの上に寝そべったままの鞄からスマートフォンを取り出した。 スイッチを入れると、薄暗い室内でぼんやりと画面が浮かび上がった。 部屋の電気を点けながら、私は画面に指を滑らせてロックを解除し、一番左上に配置してあるSNSのアプリに目をやった。 私はここ――SNS上ではアカイになる。 青とは対極にある色、赤になる。 ここでの私は、マキにすがりついて生きるアオイとは異なっていた。 ここでは、何を言うにも自由だった。 甘いものが嫌いと言ってもいい。 シンプルな方がいいと言ってもいい。 ここは狭い教室とは違う。 想像もつかないような大勢の人々が、ここに集い、思い思いに自分の意見を発信している。 私の意見に反対する人がいる代わりに、賛同してくれる人もいる。 居場所がどうこうなどと考えなくていい。 このSNS全体のどこかには、私が私自身をさらけ出しても、ここにいていいと言ってもらえる場所が必ずあるはずだった。 私はその場所を目指して、アプリにそっと手を触れた。
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