笑顔の約束

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 小三の冬、母が死んだ。以来、男手ひとつで私を育ててくれた父。その父が死んだ。癌だった。  父が死んだその日は、緑色だった木々の葉が、赤色や黄色に染まり始めた頃。そして父の六十一回目の誕生日の八日前。  誕生日には子どもたちを連れて父を見舞おう、そうして父を喜ばせようと考えていたから、父が誕生日を迎える前に死んでしまったことで私の悲しみはひとしおだった。しかしその悲しみは、すぐに心の片隅に引き上げなければならなかった。一人娘だった私には、父の死に関わるあれこれを取り仕切らなければならないと言う仕事があったからだ。  ところが、私の現在の住所は東京にあり、しかし父が死んだのは実家がある仙台。加えて私には、家事がまったくダメな夫と、小学生の子どもが二人いて、手前勝手に自宅を空け続けることはできないという事情があり、結果、東京と仙台とを何度も行き来する生活をしなければならなくなった。  その生活は私の心身と金銭を摩耗させ、東京の家族の気遣いと、仙台で何かと支えになってくれた親戚がいなければ、私はどこかで倒れていたかもしれない。     
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