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「あのね。もう少しでくうちゃんおきるから、それまでにそのアルバムをもやしてほしいの」
「ああ。わかった」
俺は心底残念がったが、他ならぬれーちゃんの言葉だから極力頷いた。
心に穴の開くような感じだった。
ぴゅうぴゅうと隙間風が吹いたその穴は、いつまでも開いたままだろう。
数週間前に買ったライターを持っていた。アルバムはびしょびしょだったが、時間をかければ乾くはず。色々な自殺を考えた時がある。ライターもその時に買った。
カンカン照りの公園で、俺とれーちゃんは噴水の水で濡れた石の腰かけに座る。水飛沫が気持ちよくて、二人でご機嫌になった。強風が落ち着いてきた。
れーちゃんは、麦わら帽子を取り分けて自慢していた。
なんでも、地獄の優しい閻魔様に「おまえは天国行きだからここじゃないんだよ」といわれて、泣きそうだった時に貰ったものだそうだ。
夢の中で閻魔様の話がでてきて、俺は驚いたが。
単に夢の世界だから、実際の死後の世界とはどこか違うのだろうと思った。
「それにしても、くうちゃん。いつまでも消しゴムなくすのやめたらどう」
「仕方ないさ。俺の癖のようなもんなんだ。失くすと、人に貸してもらって、いつの間にか現れて、それからまたなくす。その繰り返しさ」
「ダメだよ。くうちゃん。かりたものまでなくすくせに」
「最近は大丈夫だ」
アルバムが乾いてきた。分厚いアルバムだった。まだ幾分水を吸っていて、ずっしりと重い。ライターをズボンのポケットから取り出した。
「もやすのね。これでもうだいじょうぶだよ。おうちに帰って」
「ああ、何もかも燃やすんだね」
「うん。そうしないと、くうちゃん好きな人といっしょになれないから」
目を開けると、カーテンから光が漏れていた。
今日は火曜日だ。
学校へ行かないと。
交差点で信号待ち。
丁度この時間だ。
「おはよう」
「おはよう」
俺には好きな人がいる。
この人だ。
名前もまだ知らないけど。隣町の学校へ通っている。
ここから、いつも駅まで一緒に歩いて。学校での出来事や友達との他愛ない会話を話したり、最近開店した本屋の話をしたりしていた。
「なんか、雰囲気変わったね。前とだいぶ違うように見えるよ。気に障ったらごめんね。でも、なんだか生き生きしている」
「そうかな?」
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