夢の中

3/4
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「あのね。もう少しでくうちゃんおきるから、それまでにそのアルバムをもやしてほしいの」 「ああ。わかった」  俺は心底残念がったが、他ならぬれーちゃんの言葉だから極力頷いた。  心に穴の開くような感じだった。  ぴゅうぴゅうと隙間風が吹いたその穴は、いつまでも開いたままだろう。  数週間前に買ったライターを持っていた。アルバムはびしょびしょだったが、時間をかければ乾くはず。色々な自殺を考えた時がある。ライターもその時に買った。  カンカン照りの公園で、俺とれーちゃんは噴水の水で濡れた石の腰かけに座る。水飛沫が気持ちよくて、二人でご機嫌になった。強風が落ち着いてきた。  れーちゃんは、麦わら帽子を取り分けて自慢していた。  なんでも、地獄の優しい閻魔様に「おまえは天国行きだからここじゃないんだよ」といわれて、泣きそうだった時に貰ったものだそうだ。  夢の中で閻魔様の話がでてきて、俺は驚いたが。  単に夢の世界だから、実際の死後の世界とはどこか違うのだろうと思った。 「それにしても、くうちゃん。いつまでも消しゴムなくすのやめたらどう」 「仕方ないさ。俺の癖のようなもんなんだ。失くすと、人に貸してもらって、いつの間にか現れて、それからまたなくす。その繰り返しさ」 「ダメだよ。くうちゃん。かりたものまでなくすくせに」 「最近は大丈夫だ」  アルバムが乾いてきた。分厚いアルバムだった。まだ幾分水を吸っていて、ずっしりと重い。ライターをズボンのポケットから取り出した。 「もやすのね。これでもうだいじょうぶだよ。おうちに帰って」 「ああ、何もかも燃やすんだね」 「うん。そうしないと、くうちゃん好きな人といっしょになれないから」  目を開けると、カーテンから光が漏れていた。  今日は火曜日だ。  学校へ行かないと。  交差点で信号待ち。  丁度この時間だ。 「おはよう」 「おはよう」  俺には好きな人がいる。  この人だ。  名前もまだ知らないけど。隣町の学校へ通っている。  ここから、いつも駅まで一緒に歩いて。学校での出来事や友達との他愛ない会話を話したり、最近開店した本屋の話をしたりしていた。 「なんか、雰囲気変わったね。前とだいぶ違うように見えるよ。気に障ったらごめんね。でも、なんだか生き生きしている」 「そうかな?」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!