第1章

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 女友達のエリがいなくなった。突然大学に来なくなったのだ。ラインやメールで連絡を取ろうとしても返事がない。 「なあ、どうする?」  友人の誠司(せいじ)が聞いてきたが、俺にもどうしたらいいか分からなかった。  エリはほとんど天涯孤独らしく、どこに連絡していいか分からない。警察に届けを出してはみたが、あれは「身元の分からない死体が出てきたら照らし合わせてみる」ぐらいのもので、積極的な捜索はしてもらえないらしい。  何か情報は得られないかと、俺達はエリを知っている者なら普段交流がない人間にも手当り次第声をかけてみた。だが、「知らない。自分達も心配している」という返事しか返って来なかった。また、失踪しなければならない理由も、思い当る者はいなかった。  結局、それからエリを見つけ出すことはできず、数か月が経った。悲しくはあったが、なんとなく彼女はこのまま帰らないだろうと覚悟を決め始めたとき、誠司が俺の家に連絡もなく飛び込んできた。 「エリが! エリが!」  彼はひどく興奮していて、それだけ言うのがやっとのようだった。そして震える手で、一枚のDVDを手渡してきた。それはラベルもパッケージもなく、個人で造られた物のようだった。白い円盤に、ただマジックでERIとだけ書かれている。  誠司によると、怪しげなサイトで売っていた無修正のエロビデオを買おうとしたら、間違えて頼んだ覚えのないDVDが送られて来たという。 「それが、スナッフビデオだったんだよ」  俺も実際見たことはないが、ネットの情報でスナッフビデオがどういった物かは知っていた。人が残酷に殺されるシーンを収めた映像で、そういった趣味の人にはたまらないらしい。  嫌な予感を殺しながら、俺はDVDをプレイヤーの中に入れる。手の汗でケースが開けづらかった。  画面に映し出されたのは、どこかの狭い地下室のようだった。壁も床も天井も、すべてコンクリートの打ちっぱなしになっている。画面奥に鉄の扉が一つあるだけで、窓も、荷物も何もない。天井の隅に、クモが巣を張っていた。  その部屋の真ん中に、全裸のエリが立っていた。薬でも使われたのか、目がどこかうつろで、立っているのもつらそうな感じだ。
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