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『ねえ、いる? ごめんね、いきなり来て!』
それは、聞きなれたエリの声だった。
誠司が立ち上がって玄関に向かう。
だが、俺は画面から目を逸らす事が出来なかった。
玄関から、二人の会話が聞こえてくる。
『今までどこに行ってたんだよ! 連絡もなしに』
『ごめんごめん、ちょっと自分探しの旅って奴? なに、ひょっとして心配してくれてた?』
――だとすると、エリが焼かれて肉塊になったのではない。肉塊が焼かれてエリになったのだ。
錬金術師が試験官を温めホムンクルスを作り出したように。
「あがるよ。おじゃましま?す!」
俺があわててテレビの電源を消したのと、エリが部屋をのぞきこんだのはほとんど同じだった。この映像を本人に見せてはならない気がした。ましてやどういうことか問い詰めるなど考えもしなかった。
エリは、俺が何を見ていたか気付いただろうか? それはわからない。少なくとも、俺が見たかぎり表情に変化はなかった。
エリは「ただいま」と少し照れたように笑った。行方不明になる前と同じ笑顔で。
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