1.レッド

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 中東の国、シリアル。その国は長いこと、戦火に晒され続けてきた。強国寄りの政権を糧とした現地住民に対する弾圧的な政権。それに反旗を翻した市民を中心とする反政府軍。政府と反政府軍による争いは幾度かの国連介入による停戦協定を結んでは破られを繰り替えしていた。  ただでさえ混迷を極める情勢であったが、数年前から隣国の過激派集団(テロリスト)までもがシリアルに勢力を伸ばし、政府軍、反政府軍、テロリストによる三つ巴の戦乱に様相を変えつつあった。  そして、いつの時代も犠牲になるのは、力無き者達ばかりであった。彼は他国に逃れようと亡命を試みるも、隣国や欧米各国は難民の流出を恐れ助けるところか、フェンスでシリアルを囲み常時、警備として軍人を配置することで妨害していた。  力なき者は命を落とすと、入り乱れる三大戦力のどれかに荷担して手を血に染めなくてはならない。  彼らは政治の思惑とは何の関係もない一市民でしかないというのに、明日に生きる糧すら見つからない。昨日まで友人だった者を今日殺さなければならない。  そこは、この世の地獄。人間のエゴだけが渦巻くだけの地獄。人はその地獄を恐れて隔離し地獄から逃げのびた者を迫害する。  戦争とは常に弱者だけが痛めつけられるものでしかない。  愚か。一言でいってしまえばその通りだ。だからこそ、潰さなくてはならない。政府軍も反乱軍もテロリストも関係ない。それ以上の“力”で、奴らを。  それが世界を救う唯一の手段だと信じて。  混迷を極めるシリアルの首都上空に見馴れぬ軍用輸送ヘリが飛んでいた。  シリアル政府でも、反政府でも、ましてやテロリストのでもない。かといって、国連ヘリでもなかった。国連の紋章ではなく、その代わり見馴れぬマークが施されていた。二人の人が背中合わせに立っている紋章。  どこの所属なのか、形式上無線機で呼びかけるも返事はなかった。もっとも、シリアル政府にとって、そのヘリがどこの所属であろうと関係なかった。自分達の国に不法に侵攻してきた連中こそ、悪だという考えを持っていたから。仮に国連軍のヘリだとしても敵対勢力によって撃ち落とされたと主張すればいい。そうすれば、自分達が敵対勢力を攻撃する口実になるから。もっとも、考えていることは皆同じで、他の勢力も隙さえあれば戦う口実を作るから油断ならない。
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