1人が本棚に入れています
本棚に追加
手はず通り、軍は対空高射機関銃の銃口を輸送ヘリに向ける。威嚇として輸送ヘリに向けて実弾を二発撃つ。威嚇なので照準内にヘリを納めない。これで、逃げるようなら戦闘機で追い掛けて、追撃すればいい。着陸するようなら、降りた所を一斉射撃で射殺すればいい。
銃弾がヘリの横を横切ったが、操縦士は少しも慌てなかった。シリアルの政府軍がこのような行動に出ることは予測済みであったから。最初の弾はわざと当てずに相手の様子を伺うもの。その後は、どんな行動をとっても迎撃するつもりでいる。そんな連中ばかりだからこそ、市民に対する弾圧は平然と行う。もうすでに、彼らの神経は平常ではない。自分達の行いの全てを正当化し、そこから反省するということを忘れてしまっていた。善悪もない、単純に命令されたことだけに従うコンピュータを同じ。
ヘリの操縦桿を握っていたは金髪に日焼けしたのか浅黒い肌をしていた。彼は一度、自分の腕時計で時間を確認すると、輸送ヘリの格納庫に控えていた兵士に命令を下す。
「レイ、出番だ」
レイと呼ばれた若い兵士は目立つ赤い髪を持っていた。血のように赤く染まった赤い髪。彼は頷くと席を立ち上がる。手には二丁のサブマシンガンが握られていた。それぞれのサブマシンガンには英語の表記で“Rain of blood”と刻まれていた。直訳すれば、“血の雨”。それがサブマシンガンの名称なのか、それとも、持ち主である彼が趣味で刻んだ言葉なのか分からない。ただ、一つ言えることは、その武器はその名の通りのことをこれから引き起こすということ。
輸送ヘリのハッチが開かれた。レイは変わった形をした靴を履くと、そこが上空数百メートルだというのに、躊躇いもなくハッチから飛び出した。
レイが輸送ヘリから飛び降りると履いていた靴が鈍い音を立てる。それは靴に内蔵されている小型の高性能エンジンが起動する音であった。レイが履いた靴に搭載されていたエンジンが起動すると同時に、前後左右から風を発生させ、ただ落下してゆくはずだけの身体を支える。すでに、靴についての扱いに対しては訓練済みだった。すぐに体勢が整い、まるで空中を駆けているかのように走り出す。
最初のコメントを投稿しよう!