始まり

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その日の夜は何をしていても晴翔を思い出して顔がゆるむ。 夕食時には母に 「ニヤニヤしてて気持ち悪い」と言われてしまうほどだ。 基本的に私は表情が乏しい、笑っていない時には、怖い顔をしている、と必ず言われる。 前歯の二本が出ているのが気になって、うまく笑えない。 小学校高学年の頃、思春期に差し掛かった私は、自分の容姿が気になり始めた。 すると、大きなだけでなく唇を閉じていても見えるほど突き出ている前歯2本がとても醜く見えた。 笑う時には、いつも前歯が見えない様に手で隠すのがクセになっていた。 それでも執拗に男子にからかわれる事で、そのうち笑う事そのものが出来なくなった。 笑わない子供は、可愛くないと周りの大人たちに評価される。 そして私は、周りの大人たちからもクラスメートからも「咲花ちゃんて、『名前は』可愛いのに、完全に名前負けだねー。」と、自己紹介で自分の名前を言う度に言われるようになる。 その言葉は、特に色々な事に傷付きやすい年頃だった私の心を砕くには充分だった。 私は自分の名前が嫌いになった。 そして、いつも怒った顔をした、可愛げの無い、地味で無口な、笑わない女子高生になっていた。
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