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私が他の男子学生と話していると後ろから声がかかる。そちらを振り向かずに先生の方に向かう。どうやら昨日出し忘れたプリントを出せとのことだ。席を戻るついでに私はなんとなく声をかけてくれた女子学生を見る。
(マジか。あの”ゆきむらかなで”さんに初めて名前を……というか名前を覚えてくれてたのか)
私は席に着くなり、彼女の方を向いてお礼を言う。
「ありがとう、ゆきむらさん」
「べっ……別にあんたのためじゃないんだからね。先生が困って先に進めないとみんなが帰るのが遅くなるのが嫌だからなんだからね。……はっ!?ついツンデレ口調がでちゃった。今のは聞かないことにしてね」
顔を両手で隠すゆきむらさん。私はその言動でますます心が高まってしまった。
これをきっかけになぜか彼女との話がいつの間にかスムーズになっていた。最初は私にツンデレ口調を隠していた彼女だったが、それも仲良くなるに連れて隠さずに済むようになった。この時期になると、ゆきむらかなでさんの漢字はもう『雪村奏』さんと書くのが分かった。
そしてある日。
「坂田くん、私。相談があるんだけど……」
彼女からの相談は最近よくあったから私は断る気はなかった。
「うん、いいよ」
「私、好きな人ができたの」
私の頭の中でその言葉だけが掻き回る。
(好きな人だと……)
私は一呼吸して平常心で聞く。
「いつから?」
「うーんとね。入学式から少し経った後から……」
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