エンドロールは君と一緒に

5/6
前へ
/6ページ
次へ
するとビセンテは映画を見ながら小声でポツリポツリと話し始めたのであった。 「なぜ、僕が早くして映画業界を引退したか知っている?」 「いえ、知りません」 「まあ、派手に稼いだと言うのもあったが、とても大きな失恋をさせてしまってね。相手は有名女優だ。今でも銀幕の向こうで活躍している。しかも、ほら」 ビセンテが指差した先には一人のヒロインがいた。 アルフォンシーヌ・バルドー 偉大な名女優だった。 ビセンテの話は続く。 「彼女はこの映画を撮影した後、しばらく休業したんだよ。とても純粋な人だったから深く心を病んだんだろう。そう、彼女を傷付けたのは僕。僕らはお付き合いしていたのにも関わらず、僕の不倫が原因で別れた。結婚まで誓いあった仲だったんだ。僕はまさかそこまで彼女を傷つけてしまうとは思わなかった。そして男の責任と言うか、彼女と同じ業界にいることを潔しとしなかった訳さ。彼女はもう復帰が無理かと思われた時、そう、言うなれば一皮剥けて、今迄以上の女優となって失恋をバネに見事に復活を果たした。そのニュースを知った時、無責任かも知れないが思わず泣いてしまったよ」 ビセンテにそんな過去があったとは思いもしなかった。大の大人が痴情の縺れでそこまでしなくてもよいのではないかと思ったが、それだけ二人共、ピュアなところがあったのであろう。 そして寂しそうにポツリとビセンテは呟いた。 「それから・・・恋はしたものの、恋愛の神様を怒らせてしまったのかな?どの恋も実らず、こんな年になってしまった」 私は堪らず、彼の手をそっと握ってしまった。 「ビセンテ、少なくとも私は違う。あなたは私の人生を決定付けてくれた大切な人。あなたなしには私の人生は有り得なかった。まさかあなたとこんなところで会うとは夢にも思っていなかった。私と恋のシナリオを共に描いてみませんか?」 瞳孔を大きく見開くビセンテ。 「それは本気なのかい?それとも一夜の火遊びかい?」 私ははっきりと答えた。 「本気です」 ビセンテがグリーンのその底がない湖のような瞳でじっと私の黒瞳を見詰める。 そして言った。 「君はきっと銀幕の中のビセンテに恋をして、現実の僕に重ねてしまった。そう乙女のように、恋に恋しただけだ。僕などもう、恋愛の神様に見捨てられた恋の捨て猫のようなものさ・・・」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加