僕がまだ若い頃の話だ

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 僕の夢は、たった一枚の紙切れによって、すべてご破算となった。  僕の住む町は……ごめん、見栄張った。町というより正直ただの村だ。  名目上は町となっているけれど、どう見ても村としかいえない、そんな寂れたど田舎なのだ。  そんな田舎が嫌で嫌で堪らなかった僕は、都会の大騒ぎにも参加したくなかったので、都会と田舎の中央くらいにあるちょうど良い感じの町にある学校を目指した。受験である。  この町は下見に行ったからわかる。うちの住所はなんとか「町」と表記されているだけの村だが、下宿予定の下町は本当にちゃんとした町だった。  うん、素晴らしい。ヘビやイノシシより人間が多いところが実に素敵だ。  ちょっといろいろ慌ただしいところはあるが、僕にとって理想的な町だった。  というわけで僕は勉強をしはじめた。とはいえ、こんなど田舎で大学を目指すなんて馬鹿げたことを考えるのは僕だけだったらしく、周囲からは酷く反対された。幼馴染からは特に酷く詰られた。 「大学なんて行ってどうするの? 私たちみたいな田舎モンは、田舎でのんびり暮らすのが正解だよ。わざわざ都会に行こうとか、何考えてるの?」  ……いやいや、確かに平和な生まれ故郷で生涯を終えるのもいいけどさ。可能性があったら挑戦してみたいじゃない。やっぱり日本男児たるもの、お国のために役立ちたいのでありますからして。 「何が日本男児よ、ばっかみたい」  ……バカ呼ばわりはやめてくれよ……自覚あるんだから。それよりお前も一緒に受けてみない? 勉強教えるよ? 「何言ってるのそんなことしたって何の意味もないわよ。あんたみたいな賢いだけのバカじゃないの、私は。現実をちゃんと見てるんだから」  ……賢いバカって、凄い言い回しだな。否定できないけどさ……。 「ま、日がな一日中本読んでる変人にはお似合いかもね。せいぜいがんばってみたら?」  ……ああ、はいはい。がんばりますよーだ、フン。  とまあこんな感じで、数少ない村人たちから変人を見る目で見られながら、僕は勉強を始めたわけだ。  ど田舎とはいえ都会の喧騒が聞こえ始めた昨今、成人したら早く仕事に就いた方が良いと言われているこのご時世で勉強なんか始める僕は間違いなく変人だったが、いいじゃないか。僕にだってちゃんと考えがあるんだから。  そうして僕は受験勉強を始めたのだった。
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