僕がまだ若い頃の話だ

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 勉強自体は四苦八苦しながらも、順調に進んだ。ただ日にちが進むにつれ、周囲の反応は冷ややかになっていった。  そりゃそうだ。田舎の若い男児なんて力仕事をしてなんぼといった傾向がある。一人前に飯だけは食べ、そのくせやってることは家に籠って一人唸ってるわけだ。  最初は気味悪がられてたりもしたけれど、慣れてきたら慣れてきたで「何やってんだあいつ」という視線が突きささるようになってきた。とても辛い。  その中でも特に幼馴染からの態度がどんどん酷くなっていった。ある日僕の家にやってきて、半眼で呆れていた。 「あんた、まだやってたんだ……。もういい加減辞めたら? どうせ合格なんてしないわよ」  ……いやいや、こちらとしても全力で頑張ってるんだからなんとかなるって。こういうとき父親に感謝だね、彼の趣味のおかげで読むべき本だけは山ほどある。 「なるほど、変人っぷりはおじさん譲りだったのね……。それはともかく、いい加減外へ出たら? 明日はお祭りよ」  ……祭り? この時期に祭りなんて……ああ、あれのことか。別に参加しなくてもいいよ。うちは食うに困ってないからね。 「金持ちのボンボンはこれだから……。いいわよ、せいぜい頑張って勉強して、大学になんか落ちて、無駄な時間を過ごしてたってみんなにバカにされればいいわ」  ……ううう、それは本当に辛い。でもバカにするなよ、僕は何が何でも合格してみせるわ!  言い返すと、幼馴染はフンと鼻息荒く障子を閉めて出て行った。僕は語気荒く啖呵を切ったのだが、すぐため息をつく。  村人の不審な目付きと陰湿なヒソヒソ話よりはマシだが、あの幼馴染は露骨に僕をバカにしてくる。  しかも日に日に言うことがキツクなってきている気がする。そんな頻繁に嫌味を言ってこなくてもいいのに、とちょっとだけ落ち込む。  昔から二人で良く遊んだ仲だ、どうせなら彼女には応援してほしかった。  でも無理なんだろうなと諦観の気持ちで受け入れる。今日も飛行機が低空を飛ぶ音が煩い。  いつご飯やらなんやらで自室から引っ張り出されないとも限らない。僕は幼馴染の言葉を忘れることにして、資料が広げられた文机へと向き直った。
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