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男は、火夢繪よ、火夢繪よ、と口ずさんだ。
腕を広げて太陽の日を浴びた。
今まで出来なかったことを、今日してしまおうと思った。
火夢繪よ、火夢繪よ。
また、口ずさんだ。
不思議なことに、その続きは出てこない。
進めば分かるだろう。
そう思って歩みをほんの少し早める。
続きが早く知りたかった。
遠くで鈴が鳴った。
男の、火夢繪よ、火夢繪よ、というのに合わせるように、シャラン、シャラン、と鳴った。
男はまた笑った。
まだ続きは分からなかったが、鈴の音は伴奏だと知っていた。
走ろうか。
息が苦しくなるかと思った。
けれど、全く苦しくなかった。
風が男の体の間を抜けていく。
心地良いと思った。
子どもの頃のように駆けた。
野山を駆け巡った時のように、胸が騒いだ。
走っている間もずっと、火夢繪よ、火夢繪よ、と口ずさんだ。
息は切れなかった。
鈴の音も絶えず鳴る。
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