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鶴ヶ峰真白(つるがみね・ましろ)。22歳。
好きなものはミルクティー。
得意なことは、人殺し。
これが、私のプロフィール。
閉店間際のカフェには、ほとんどお客さんがいない。
店内にいるのは、私と、2人組の女子大生と、店長だけだ。
カウンターを含めて20席くらいしかないこじんまりとした店。
あー、早くあの子たち帰ってくれないかなー。
冷めてしまったミルクティーをちびちび飲みながら、カウンターに座る2人組のを軽くにらむ。
この店の客層は、若い女性が中心。
女子大の近くという立地と、チェーン店並みの価格設定、近所のケーキ屋から仕入れる美味しいスイーツに、店長自慢のサンドイッチが人気の理由らしい。
でも、若い女性が集まる一番の理由は、店長の容姿だ。
「12カフェ」の店長、青井優寿(あおい・ゆず)。29歳の独身男性。
身長177㎝。細身の体型に黒いエプロンがよく似合っている。切れ長の瞳に、いつも微笑んでいるかのような口元。優しく上品で、王子様とまではいかないが、王子に使える執事のような雰囲気を醸し出している。
2人組の女子大生は、もう30分も青井と会話している。まったく。
カフェはお茶するところです!おしゃべりもほどほどに!
正義感の強い私は、ついつい小言を言いたくなる。
コンビニの列に割り込む客や、電車で音漏れの激しい人間を見ると、居ても立っても居られなくなるのだ。
まあ、そういう私も、青井さんが目当てっちゃ目当てなんだけどね……。
もう今日は諦めて帰ろうかな。
そう思ったころ、やっと2人組が会計に立った。
どうやら、これから授業があるらしい。
2人の会計を終えた青井が、こちらのテーブルに近づいてきた。
「お待たせ、真白ちゃん。もう閉店の時間なんだけど、今日は何して遊ぶ?」
飄々とした調子で、微笑んでくる。
この、余裕な態度。
気にくわない。
私はミルクティーを飲み干し、眼鏡の位置を整えてから、言った。
「今日こそ、あなたを連行または殺害させていただきます」
そして、眼鏡のフレームの隠しボタンを押し、麻酔針を打ち出した。
青井さんに向かって。
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