青井さんには触れられない

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―2― 安全防災局安全防災部危機管理対策課。 この課の中には、密かに「暗殺班」と呼ばれる組織がある。 県民にとって危険となりうる存在を、秘密裏に排除し、安全を守るための組織。 ここが、私の所属している場所だ。 「ここを辞めるときのルールはご存じですか」 この課の副主任のような立場である佐藤主事は、私たちを呼び出して、まずこう聞いた。 佐藤主事。年齢は、たしか30代前半。 夏でもピシッとスーツを着こし、誰に対しても丁寧に話すその姿勢は、えもいわれぬ威圧感を醸し出している。感情が読み取れず、常に1人黙々とデスクに向かう姿は、紅雄に言わせれば「堅物メガネ」ということになるらしい。そんなところが、一部の女子職員には受けているのだが。 「はーい、記憶を消すこと、っすよね」 ちゃらっと答えたのが紅雄。 私の相棒。 品行方正な佐藤主事とは正反対なのが、この小野宮紅雄(おののみや・べにお)25歳だ。 両耳に光るピアス。ワックスでふあっとさせた頭髪。着崩したシャツ。一見近寄りがたい雰囲気があるが、話してみると誰に対しても明るく朗らかな性格だと、わかる。 しかし、佐藤主事に言わせれば「チャラピアス」ということになるらしい。 この前なんて「その耳に空いた大きな穴に、ハンガーをかけたらいかがでしょうか」とか言っていたし。 「概ね正解です。我々は、その仕事の特殊性から、一般の職員とは異なる扱いを受けています。この課を抜けるとき、あるいは県庁から退職する際は、必ず記憶を消し、貸借したものを返却するというルールがある」 そう。 私たちは、税金で雇われた暗殺者。 地方分権が過度に進んだ世の中で、知事の命令によって、県民の安全を脅かす存在を排除するのが仕事。 「このルールを守らず、突如行方をくらませた職員がいるとしたら、どうしますか、鶴ヶ峰さん」 「えっ、あ、放置しておくわけにはいかないですよね・・・」 「そりゃそうだろう、真白。俺たちのことペラペラ話される訳にはいかないんだから」 「じゃあ、問題が起こる前に捕まえます……!」 「そうですね。その通り。規則を破ったものは即座に捕らえて連行し、記憶を消し去ります」 「でも、そんなやつ今までいたことあるんすか」 「ええ。今から2年前。唯一一人だけ」 二年前といえば、ちょうど私がここで働き始めた頃だ。
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