青井さんには触れられない

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―3― そして、今。 青井さんに対峙している。 紅雄に恋の始まりだなんてからかわれてから、心の奥底で青井さんが気になって仕方がない。 そうです、私は単純です。 自分のそんなところが嫌だ。 だから、青井さんと戦うときは、いつも不機嫌モード全開なのです。 「この調子じゃ、何年経っても僕には触れられそうにないね」 「こう見えて、私は与えられた課題は100%こなしてきたんです」 「残念だね、その連勝記録がここで途絶えちゃって」 「まだ時間はあります!なめないでください!」 「じゃあ、特別にちょっと優しくしてあげましょうか」 青井さんが、こちらに手を差し伸べる。 手を伸ばせば、確実に触れられる距離。 絶対、躱されちゃうんだけど。 わかっているけど、ここで、手を触れることができたら。 ミッションクリアだ! そっと、手をつなごうとしたそのとき。 「真白、ヤバイ状況だ。すぐに撤退しろ!」 紅雄から通信が入った。 「見るからに危ない奴らががその店狙ってるぞ?!おまえ、一体何をやったんだ・・・」 「え?私は何もしてな――」 どっかーん。 言い終わる前に、笑える感じの爆音が響いた。 本当に襲撃されているらしい。 「あー、ばれちゃいましたか、ここ」 燃えるゴミの日にゴミ出し忘れちゃった、みたいな感覚で青井さんはお茶目ポーズをキメてる。 ふざけてんのか、こいつ。 「何か恨みを買うようなこと、したんですか」 「うーん、ちょっとね」 そんな会話をしている間にも、ドドドドドと怪しげな音が響いてきた。 「と、とにかく逃げましょう!」 「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ、ここ、いろいろなものを仕掛けてあるから」 まずはこれ! と、楽しそうにキッチンへ入っていく青井さん。 冷蔵庫を開いてごそごそやると。 「うわぁー!」 外から野太い悲鳴が聞こえてきた。 何かのトラップが発動したらしい。 「ふふ、なかなか楽しくなってきましたね」 「楽しんでいる場合ですか?!」 「まあ、これくらいにしておきますよ。もう、僕は誰も殺さないから。では!」 ちょっと、切なく笑って言って、青井さんは窓から飛び出していった。
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